この文章では、ロジカル・シンキング(Critical Thinking)について、お話をします。けれど、論理的(批判的)に考えること。それは、いったい何のためにあるのでしょうか。

就職/転職活動で有利になるからでしょうか。みんながそれを大事だと言うからでしょうか。それとも”デキるビジネスマン風”で格好良いからでしょうか。

そんなことではない「ロジカル・シンキングはなんのため?」を、はじめに紐解いておきたいと想います。

「意味」の喪われた時代に

これから就職活動をしようという、多くの学生が、こういった事を口にするそうです。「有名な会社に入りたい」「安定している会社がいい」「成長できる企業を探している」。つまり、ポジショニングの戦略です。「どこに行けば、トクができて、効率が良いか」というモノサシです。

それはそれで、大切なことだと想います。お金が無くては美味しいものも食べられないし、成長がなくてはいずれ働く場所を喪うでしょう。

想えば高度経済成長期を経て、私達の先人は、この豊かな日本を築いて下さいました。「ジャパン・ミラクル」「日本の奇蹟」とも呼ばれた、世界史に刻まれるべき経済発展は、特需なども味方しましたが、官民一体となって実行された、緻密な戦略によるものです。半世紀以上前に、一敗地に塗れすべてが喪われた日本で「高付加価値産業(自動車、家電)でアメリカに勝つ」と決めた人たちが居たのです。

その中で、至上命題として置かれたものは「効率」でした。効率を上げるためには、どうすればよいか。それは「均質化」です。職人が木像を掘り出すように、ひとつひとつの木目や木の特性を見分けて作るのは時間が掛かります。ドロドロに溶けた金属(均質なもの)を金型に流し込んでやれば、生産効率は1000倍にもなるでしょう。

わたしたちは、均質にすることで、効率化を達成してきたのです。

当時「効率」を上げることには「意味」がありました。それは確かに、暮らしが豊かになっていったから。家族を、共同体を、支えているという自覚が持てたから。

けれど今、この社会を覆う閉塞感はなんでしょう。「効率」の先に、最早、意味は見出だせなくなった。そんな時代に私達は生きています。

あたらしい「意味」をつくる

消費のしかたにせよ、働きかたにせよ、人々の意識は変わりつつあります。「何を持つか」より「どう生きるか」へと。

このような時代にあって求められているものは「既に分かっている価値(速さ、効率、お金)を、さらに上げる」ことだけではなく、あたらしい「価値」を提示することです。

“どうせ”今日を生きているのなら、できれば「価値」あることをしたいな、と。私もそんな風に思います。価値は「意味」と言い換えても良いかもしれません。そう、できれば「意味」のあることを、したいんです。「生きた実感」と言い換えてもいい。それが意味。

何をもって「生きた実感」と言うのでしょう。それは人それぞれです。ゆっくりと美味しいものを味わっている時が至福だというひとも居るでしょう。その料理を創り、供すること、そしてお客様に味わっていただくことこそが、という料理人も居るでしょう。

私の場合はどうでしょうか。それは「いい仕事をすること」。この一言に尽きる。いい仕事の基準として、3つ置いています。「記憶に残る仕事」「本物の会話の産まれる仕事」「基準の変わる仕事」。そういう仕事が本当にできることは、そう多くはありません。けれど「いい仕事ができたな」と思える。そういう瞬間の為に働いているんだなあ、と思えます。

この文章は、私と同じように「良い仕事をすること」。それによって生きた実感が得られるという、そういう人に向けて書かれました。

大切なのは、プロジェクトが上手くいくこと

良い仕事は、完結したひとつひとつのプロジェクトを通じて行われます。プロジェクト。それは、大きな理想・偉大な夢を描き、意志を持って着実に形にすること。始めがあって、終わりがあって、自分と仲間と、そしてお客様との約束を守ること。

イベントやツアーを仲間と共に企画し練り上げ、関係各所と連絡を取って交渉し、場所を押さえ、当日の状況に即応したオペレーションを行うこと。商品とサービスを作り、戦略を立てて収益をあげること。

世の中を良く観察し、人の気持ちと人生の背景を推察し、目の前の問題に気づき、解決のためのアイディアを考え、試行錯誤し、やり方を変えて、身近な「あなた」の問題を解決しようとすること。

すべては、良い仕事・良いプロジェクトの「打率」が上がるように。ロジカル・シンキングは、そのうちの、ほんのひとつの技倆に過ぎません。プロジェクトを上手く遂行するために個人として持っておくべき、最低限のスキルにすぎないのです。

ロジカル・シンキングだけでは、よい仕事の遂行には不十分です。いや、文章で学べることすら、それほど多くはない。けれど「これだけは抑えた上でプロジェクトに向かうと良いだろう」と言える、ひとつの体系を炙り出すことは「意味」のある事だと想います。

「ロジカルシンキングことはじめ」では、よい仕事をするための基本的な技術と考え方をあなたに提示します。