既に、「構造化の技術」についてはお教えしました。ここでは、構造化の技術を用いて、発見した問題を、要因に分解し、その中で1.原因を抽出し, 2.課題設定し, 3.検証します。

すなわち、問題のWhyツリーを書いて構造的に問題を把握して、その中で解決すべき課題を特定(設定)して、必要ならば課題かどうかを検証する というのが本項でやるべきことです。必要ならば、というのは、例えばコンサルティングファームであれば、それが課題かどうかを事実と論理によって検証し、証明する必要がありますが、学生団体や規模の小さなビジネスであれば、実際にやってしまった方が検証するよりも速くて安かったりするからです。

原因とは、何が理想と現実のギャップ=問題だとした時に、それを因果関係で構造的に捉えた時の、現在の問題を作り出している原因です。
課題とは、原因のツリーの中で特定できるいくつかの根本原因を「いかにして~(How might we…)」と表現しなおしたものです。

例えば、「問題:頭が痛くてパフォーマンスが出ない」
「原因:頭が痛い原因は、寝不足だからだ」
「問題:いかにして寝不足でもパフォーマンスを発揮するか」

Why? What?で問題の構造を明らかにする

「なぜ?(Why?)」「どういうことなの?(What?)」という「質問」をして、問題を掘り下げます。分割によって、問題の全体と要素を構造で押さえましょう。

構造化・掘り下げのとき、

  • 問題の中の「単語」に注目する。
  • 何を考えなければいけないかを、考える。
  • 一度で全部できると思わない。ゼロリセット。
  • 具体化・抽象化して考える
  • 時間のプロセスに沿って考える

といったことを意識するとうまく行くでしょう。

なるほどこれか体験

しかし、どこまで、どんな風に構造化すれば「成功」と言って良いのでしょうか?これには、上手く答えを出す事ができません。できませんが、うまく構造化できた時には「なるほどこれか」という手ごたえを感じる事があります。綺麗に分割できた時、スッキリした気分になる。その手ごたえが感じられない時、思い切って「ゼロリセット」してみてください。

原因特定・課題設定の仮説立案

仮説思考、という言葉を聴いたことはありませんか?
仮説というのは、「その時点で考えられる、最も確からしい答え」のことです。要素へ分解したとき、どの要素が、根本原因なのかを推定することをここでは仮説と呼びます。単に構造の中の1つをこういう根拠でこれだ、と推定する事(cf.お金が無いのはブランド物に使いすぎだから)もそうですし、その要素の中から矛盾の構造を見出し(cf.痩せたいけど美味しいもの好き)その矛盾があるからではないか?という「推測」を仮説とすることも可能です。

構造化の時に「お金が無い」問題を考えました。その例でいくと、仮説は「時給が低い事が原因では?」となります。

お金が無い問題の仮説
お金が無い問題の仮説

課題の深掘り

また、課題は、深堀りされていれば深堀りされているほど、解決に向けたアクションが取りやすくなります。
良い課題は、Why?を突き詰めた先にあります

検証/分析

検証の仮説立案:どうすれば、それを証明できるんだろう?

次に、「課題=根本原因であるとの仮説」が、どうすれば検証できるか考えましょう。もちろん「時給が低い事」といった簡単な原因であれば、本当かどうかは「実際に今、一時間800円しか貰っていない」とか、「時給1500円の塾講師だけど、テスト採点にお金が出ないので、時給換算すると1000円以下」といった「事実」で検証を行う事ができます。

情報収集前に、考える:

このように、検証の為には、事実を集めなくてはいけないのですが、その情報収集前に考えるということが、優れた問題解決者であるためには、決定的に大切です。情報収集をする前に、必ず仮説を立てる癖をつけましょう。人は、自分が何を知るべきなのかを知らないまま、延々と情報収集を続けがちな生き物です。

学校のレポートでも、インターネットで情報収集をする時も、調べ物をするための読書も、論文でも、それは同じです。
情報収集前に「具体的にどんなデータ・事実があれば、検証できるか」という事を考えて下さい。
具体的なデータという「数字」を集める前に、どんな種類の数字が必要なのか、いわば、どんな数式の中に数字を入れるのか、という事を考える事が大切なのです。

推定する [38]

また、手元にない情報も、頭を使えば概算できる事があります。データの正確さがそこまで問題にはならない場合、自分の頭で推定してしまいましょう。日本国民の数1億3千万人、世帯数5000万といった知っているデータや、日常の知識を元に、データを推計すると良いです。

推定(いわゆるフェルミ推定)にはいくつかテクニックがあります。附録の第D章にて、それらを紹介しましょう。

事例―Report作成

この仮説思考は、身につけておくと本当に広く応用できます。
例えば、資料を調べてレポートを作る、といった、レポート作成を事例に取り上げましょう。

Report作成―普通の人の方法

普通の人は、まず資料を読み込み、次にレポートを書きはじめ、書きながら資料に戻り、また書き、、、というプロセスでレポートを作成します。
今日からそのやり方を変えて下さい。

Report作成―仮説的アプローチ

今日からは、もっとラクな方法でいきましょう。問題に対し、資料の中から「何を調べなくてはいけないのか?」を特定します。言い換えれば、レポート課題の「問題」をトップダウンに分解し、問題の構造を把握し、問題に答えるためには、何を知らなくてはいけないかを特定するわけです。

例えば、「ある国の歴史を資料を読んでまとめろ」というレポートだったら、どのように分解すればよいのでしょうか?
歴史とは悠久の時の流れですが、基本的には重要なのは恐らく、その歴史の流れの「変わり目」でしょう。歴史の流れを変える「事件」に注目し、その事件によって、内政(経済、文化)と外交(対外関係、戦争)がどうなったか、という情報収集を行います。文字数が少なければ大きな事件を1つ取り上げて書き、文字数が多ければ、いくつかの事件を取り上げ、内政や外交などをより詳細に書くことにすると良さそうです。

慣れてくれば、レポート課題が出た瞬間に頭の中で、後は資料から情報を探してきて埋めれば終わり、という次元でのレポート課題の構造が浮かび、最短でレポート課題を(しかも余計な情報が混じりにくいので高いクオリティで)終える事ができます。

Report作成―疑問:知識が無くて仮説は立つか?

しかし、こういう事を言うと、必ず湧いてくる疑問が「でも、その分野の事を全く知らない場合、仮説が立てられないのでは?」という疑問です。
それは確かに最もです。知識が全くのゼロ、概要すら分からない状態で仮説を立てるのは厳しい。ですが、問題を変えればこの疑問も氷解します。
すなわち、「概要を把握するには、どんな情報が必要か?」という問いを立て、それに答えていくと、『問題構造を分解するのに必要な程度の情報』を、どのように手に入れるかという計画が立てられます。
ぜひ「情報収集前には、必ず必要情報を特定する」という習慣をつけてください。情報収集の前に「まず、アタマを使う」のは一見辛く、大変なようですが、その実りは多く、短時間で要領良く質の高い仕事をすることに繋がります。

クイックウィン・テスト [23][46][47]

また、世の中には存在しない「事実」を集めなくてはいけない事もあります(研究などではそうですね)。そういった時は、もし簡単に実行できるなら、その結果や成果を左右する要素に対する仮説を立てた後で、実際に小さな規模で「やってしまえ!」ば良いのです。IDEOなどでも重視されているラピッドプロトタイピングもこれに当たります。

課題設定 まとめ

要因分解・原因把握
要因分解・原因把握

問題の構造を把握しよう。
把握できたら根本原因=課題を特定しよう。論理的に・仮説的に。
仮説が正しいのかどうか、検証しよう。
検証のために、推定し、必要な事実を集めよう。